いつまでも感謝を忘れない姿は美しい

 お盆に際して、祖母の新たなエピソードを聞き、感動したのでこちらに書きたい。

 戦後まもない60年前に、11人兄弟の貧しい家の女の子が、中学卒業と同時に定時制高校に行きたいので雇ってほしいと懇願しに来たらしい。だけど、同じような境遇の人を何人も抱えていたため、最初は断ったそうだ。しかし断った後にとても悲しい顔をして変える後ろ姿にたまらず追いかけ、一年待てば定時制高校に行かせて上げるから子供の子守をして欲しいと声をかけた。それにより、一年遅れて働きながら定時制高校に行くことができ、卒業後は別の道に進めた。それから50年経っても、「当時は雇っていただきありがとうございます。今の私があるのはここのおかげです」と感謝の挨拶に来ることがあり、その情景を想像するだけで美しさと尊さを感じた。

 人のためにどうにか無理をして、やせ我慢をして雇った祖母と、当時の感激を忘れずにいつまでも感謝をし続ける元従業員の心構えと態度が現代において忘れられているように思える。ノブレス・オブリージュとは正にこのことだと思った。ありがたみを忘れない不遇の人に対しては憐憫の情が湧き、どうにかしてあげたいと思う。祖母はとても苦労しただろうけど、いつまでも感謝を忘れないその姿に達成感と誇りをもつことができ、十分報われたと感じただろう。

 助けてくださいと懇願され、感謝を忘れない人に対して、善い行いをして公開することはないし、鬼滅の刃でいえば煉獄さんのような人が出てくるだろう。クレクレばかりだったり、支援してもらって当然という態度をとったり、自分の権利を主張したり、上の人を糾弾するような心持ちの人を救う人はいない。なので感謝の気持ちを忘れないようにすることがいちばん大切であり、そのような人が増えてくることで、ノブレス・オブリージュを持った男気あふれる人が増え、世の中が良くなっていくのだろうと思った。

 最後に、僕にはこのような情景が浮かんだ。穏やかな気候の晴れの日の和室、そこに風格ある祖母と少し若い女性が正座で向き合い、若い女性が頭を下げるのを静止する祖母。その情景に日本が失ったものみたような気がし、憧憬した。